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お母さんは「鬼」になってください。

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ムスコの闘病が始まった最初に、小児科の先生に言われた言葉です。

その病院の小児科病棟では、親の付き添いは認められていません。

ただ、小児科病棟のナースステイションの奥にある、6部屋の無菌室に入院する親子は違います。

親が付き添うことが、前提条件だったのです。

まいご家のように、一人っ子ばかりではありません。

すべての家庭に、付き添いが求められました。

(シングルマザーで、フルタイムで勤務しているお母さんもです。その方は、病室から出勤していました。)

無菌室に入ったその日の夕方、すべての説明が終わった後に、先生は言われました。

小児科先生

お母さんはこれから「鬼」になってください。

目次

子どもの闘病で親に求められたことは、一瞬でも目を離さないことと、薬を飲ませること。

子どもの闘病で親に求められたことは、一瞬でも目を離さないことと、薬を飲ませること。

子どもの年齢によっても、親に求められることは変わります。

まいご家の場合は、3歳になったばかりだったので、

小児科先生

決して病室で、子どもが起きている時間はひとりにしないこと。

という指示が加わりました。

血小板の数値が下がっている時は、少しの打撲でも命取りになるからです。

そしてすべての付き添う母親に求められたのは、薬を飲ませることでした。

付き添いローテーションを組む。

ムスコが入院した病院は、当時まいご家が暮らしていた街から約80キロ離れていました。

とうちゃん

休日しか顔を出せない。

幸いかあちゃんの両親が、病院から10数キロのところに暮らしています。

祖父母の面会は、本来は状態の良い時しか許可されていません。

  • 3歳児で目が離せない。
  • 自宅は遠方で、母ひとりの付き添い。

この2点で、特別に祖父母の入室が許可されたのです。

じいちゃん

職場は、病院に近いから、車通勤にして帰りに寄るよ。

かあちゃんが病棟のシャワーを使う時間は、じいちゃんが病室にいてくれました。

入院中の付き添いの親の食事はでません。

自分で用意をしないといけないのです。

ばあちゃん

お昼のお弁当は、私が買って届ける。
昼から散歩がてら、夕食や朝食の調達にスーパーに行っておいで。

1日に1回、病室を出て川縁の遊歩道を歩くことができました。

わたしの父母の協力で、病室で一人きりでムスコを見るという最悪の看病は免れました。

土曜日の昼からは、とうちゃんが高速バスに乗って病院へやってきます。

とうちゃん

今日のお昼だよ。

かあちゃんの弁当を途中で買って、持ってきてくれるのです。

付き添いを交代してもらい、かあちゃんは実家に行き1週間ぶりのお風呂と、寝返りのできるお布団を満喫します。

翌日、今度はかあちゃんが、とうちゃんのお昼を買って病室に戻るのです。

かあちゃん

まさに家族総出だった。
周りもお父さんとお母さんが交互に付き添い、留守宅の子どもの面倒を見ていました。

入院後2週間が過ぎて始まる、ムスコの逆襲。

ムスコが悪い訳ではありません。

そもそも治療中に飲む薬は、一般的な薬と違い飲みやすいものではないのです。

しかも治療の副作用で、薬を飲んだ直後に嘔吐してしまう。

服薬後30分以内に嘔吐した場合は、最初からやり直しです。

かあちゃん

3種類の薬を飲む場合、体調が悪い時には、万が一の嘔吐を考えて1時間半かけて飲ませます。

途中、嘔吐でやり直しが必ず入る。

それが、1日3回です。

朝の薬を飲み終わっていないのに、昼の薬が届けられる。

昼の薬を飲み終わったら、休憩する間も無く夜の薬が届く。

起きている間は、ずっと薬との格闘だった。

当然、子どもは飲みたがらなくなります。

ムスコ

いや。

当時看護師さんから聞いた話しでは、大人の患者さんでも薬を隠したりするそうです。

深夜の和解?それとも諦め?

深夜の和解?それとも諦め?

先生が「鬼」になるように言ったのは、この服薬管理のことだったのです。

入院がスタートした時には、

かあちゃん

鬼になれと言われても・・・

と思っていました。

突然の子どもの発病で、自分の気持ちをしっかり持つことだけで精一杯でした。

かあちゃん

子どもの前では、笑顔でいること。

それ以上のことは、できませんでした。

病室から一歩外に出ると、ベビーカーを押して買い物をしているお母さんを見かけます。

かあちゃん

数日前まで、自分も同じ立場だったのに。
自分の周辺だけ世界が狭まって、薄い見えない壁ができたような気持ちでした。

外に出て、感染症を自分が拾ってくることも恐ろしかった。

何もかも手探りで、どこで「鬼」にならなければならないのかと、いつも考えていました。

「鬼」になるのは、薬を飲ませることだったのだ。

2週間目がくる頃には、副作用の影響もあって薬が飲めなくなっていました。

薬が喉を通っても、30分以内に吐くと最初からやり直しです。

飲んでも飲んでも、新しい薬が届けられる。

口を開こうとしないムスコの口をこじ開けて、薬を入れます。

暴れるので、看護師さんと羽交い締めにして、口に薬を押し込みました。

それでも飲まない。

小児科先生

点滴で入れられる薬は、すべて点滴で入れている。
出されている薬は、口から飲まなければ効果がないものばかりです。

ムスコを恫喝しながら薬を飲ませようとしているかあちゃんを見て、

小児科先生

必ず、飲むこと。この薬が、命を守るのです。

そう言われました。

母親に求められている役割は、わかった。

けれども、どうしたら薬を飲ませることができるのか、その手段は誰も教えてはくれないのです。

飲ませなければならない。

100の結果しか、求められてはいない。

できることは、「鬼」になって子どもに薬を飲むように迫る方法しかわかりませんでした。

かあちゃん

本当に「鬼」になった。大声も出して、怒りも使ってありとあらゆる手段を使いました。

深夜の2時、泣き出したかあちゃん。

薬と格闘するかあちゃんとムスコを見て、じいちゃんが

じいちゃん

ワシはもう見ていられん。

と帰宅して、ばあちゃんに言ったそうです。

土曜日にやってきたとうちゃんも、薬を飲ませることにヘトヘトになって帰って行きました。

とうちゃん

本当に飲まない。

とうちゃんも、大声を上げてムスコに薬を飲ませようとしていました。

日曜日の深夜、いやもう月曜日の早暁でした。

何度も吐いて、深夜2時を過ぎても夕方6時に配られた夜の服薬が、終わっていません。

絶対に口を開こうとしないムスコ。

精魂尽き果てたかあちゃんは、ムスコの目の前で初めて泣いてしまったのです。

かあちゃん

どうして薬を飲んでくれないの。
大事だから、やっているのに。

ムスコ

。。。。。。

それまでの子育て中で大切なものは、「大事大事」と伝えていました。

「〇〇はお母さんにとって、大事大事。」は、私の口ぐせでした。

かあちゃん

もうどうしたらいいのか分からなくて、緊張の糸が切れた感じです。
そんなかあちゃんの姿を、ムスコは固まって見ていました。

薬を飲み出した。

薬は飲ませないといけない。

薬をムスコの口元に持っていくと、それまでと違って自分から飲みます。

30分以内に吐いてしまったので、またやり直しでした。

でも、その後は

薬を拒絶することはなくなりました。

かあちゃん

子どもだけど、覚悟を決めたような雰囲気があった。

薬が飲みやすくなったのではありません。

でも、飲もうとしてくれるので二人で頑張れたのです。

吐きそうになると、背中をさする。

30分が過ぎるまで、なんとか吐かずに頑張れるようになりました。

体の状態が上向くと、吐き気も治って来ます。

薬を飲みやすくするための工夫も、パターンを確立しました。

かあちゃん

いろいろ試して、リンゴジュースと一緒に飲むと喉を通りやすいことがわかった。

ムスコ

オレ小学校高学年になるまで、クリームソーダが飲めなかった。
色が人工的だから、絶対に味も薬だと思ってた。

かあちゃん

それだけ、強烈な味のお薬だったんだ。

最初の1ヶ月が終わる頃には、いつの間にか薬をすんなりと飲めるようになっていたのです。

みんなが通る道。

深夜に母親が泣き出して、それから子どもが薬を飲み始めた話しは、その後入院してきたお母さんからも聞きました。

ひとりは小5の男の子。

もうひとりは、4歳の女の子。

二人とも、深夜に母親が泣き出してからおとなしく薬を飲むようになったそうです。

かあちゃん

先生は、たくさんの患者さんの経緯を見て「鬼」になれと言ったんだ。

親子で極限状態まで追い込まれなければ、子どもは薬を飲むことを納得はしてくれない。

そして、その前に母は「鬼」にならなければ、極限状態までは到達しない。

かあちゃん

入院中は、両端が崖の一歩道を登っている気持ちでした。
周囲のなんでもない一言でも不安になる。道から落ちてしまう不安と常に闘っていました。

怒りのリミッターを外してしまった母。

怒りのリミッターを外してしまった母。

けれど、一度「鬼」になってしまった母は元には戻れません。

入院中は様々な支援があり、表面化はしませんでした。

ムスコの退院後、かあちゃんは心身のバランスを崩しかけます。

それはゆっくりと進んでいったのです。

母が「鬼」にならなければ、病室から生きて出られなかった。

かあちゃん

でも日常生活で「鬼」はいらない。

一度心の中に巣食った「鬼」は、簡単には出て行ってくれない。

かあちゃんは自分の中の「鬼」を飼い慣らさなければならなくなった。

かあちゃんたちに起きた出来事を、誰も知らないところで。

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